近年、人的資本経営という言葉もよく使われるようになっています。
旧来の「人的資源(Human Resource)」に対して、「人的資本(Human Capital)」と捉えなおすことで、企業の持続的成長や発展、競争優位の源泉として無形資産であるヒトに着目した経営を行うことが推奨されています。
経営戦略を検討するにあたり、考え方が参考になるため紹介します。
人的資本経営の定義
人的資本経営とは、人材を「資本」として捉え、その価値を最大限に引き出すことで、中長期的な企業価値向上につなげる経営のあり方です。
経済産業省「人的資本経営 ~人材の価値を最大限に引き出す~」
人的資本、人的資産、人的資源の違い
経営資源は、「ヒト・モノ・カネ・情報」とされています。
その中でヒトは、旧来「人的資源」とされてきました。P/L上の人件費などのコストの扱いです。
近年はコストではなく、適切な投資により無形資産として売上を生む財産として、資産や資本の扱いに変わってきています。
人的資本(Human Capital) 上図の③の考え方
「人財」として、ヒトを企業価値を向上させるために投資して磨き上げる”財産”ととらえた場合は、上図でいう③の無形固定資産の中に一部含まれます。貸借対照表の中には含まれない部分があるため、近年「人的資本の情報開示」として開示することに注目が集まっています。
ESG投資の「社会(Social)」面の観点、欧米での情報開示義務への対応の観点、などから「人的資本」の開示が求められてきています。2018年12月にISOが公表した「ISO30414:2018Human resource management — Guidelines for internal and external human capital reporting(人的資源管理 —社内外の人的資本報告に関するガイドライン)」では11の指標が示されています。
日本においても2022年8月に内閣官房より「人的資本可視化指針」が発表され、対応することが期待されています。また、2022年11月に金融庁より上場企業には「「企業内容等の開示に関する内閣府令」等の改正案」が公表され、有価証券報告書での開示義務が加わろうとしています。
人的資産(Human Asset) 上図の②の考え方
「人財」として、ヒトを企業価値を向上させるために投資して磨き上げた”財産”ととらえた場合は、上図でいう②の無形固定資産の中に含まれます。企業が貸借対照表の無形固定資産として維持・管理していくという考えになります。知的財産権(特許、商標など)やノウハウなどが含まるという考え方になります。
人的資源(Human Resource) 上図の①の考え方
「人材」として、ヒトを利益を生み出す”材料”ととらえた場合は、上図でいう①の人件費としてコストとらえているということになります。開発や生産系人材の人件費は売上原価の中に含まれます。営業系人材の人件費は販管費の中に含まれます。
人的資本経営とは
人的資本経営は、経営戦略(将来の成長・発展のための戦略)として取り組むことをお勧めします。企業の競争優位を支えることや、イノベーションを生み出し持続的に企業価値を向上させる原動力はヒトです。ヒトつまり人的資本に対する適切な投資で、効果を生み出していくことが求められています。
環境変化に伴い、事業ポートフォリオの見直しが必要になることがあります。事業を運営するのはヒトであるため、事業ポートフォリオの見直しに伴い人財のポートフォリオの見直しも必要になります。また、イノベーションや高付加価値の製品やサービスを生み出すための人財の確保(採用)、配置、育成、組織構造の構築など、経営戦略と整合した人財が必要です。
人的資本経営について学ぶには、下記の情報が参考になります。
人的資本経営コンソーシアム
人的資本可視化指針
人的資本:開示事項・指標参考集
人材版伊藤レポート
持続的な企業価値の向上と人的資本に関する研究会報告書~人材版伊藤レポート~
人的資本経営の実現に向けた検討会報告書~人材版伊藤レポート2.0~
まとめ
人的資本経営は、世の中の流行りや開示義務への対応という後ろ向きの対応ではもったいない取り組みになります。経営戦略(将来の成長・発展のための戦略)の一環として考え、変化の激しい現代の対応手段の一つとして前向きに取り組むことが有効だと考えます。
自社単独で経営戦略を立案することや、実施していくことが難しい場合は、経営コンサルタントなどの支援を受けながら推進することもご検討ください。