経済産業省配下の特許庁は、「知財で経営の質を高めること」を存在意義の一つにしています。今回はデザイン経営にスポットを当ててみたいと思います。
もともとは産業の発展を目的とした産業財産権(特許、意匠、商標、実用新案)の管理が、省庁(特許庁)としての存在意義だったのだと思います。それが、文化の発展を目的とした著作権と組み合わさって、知的財産権の管理に注力ポイントが移ってきたのだと考えます。
お客さま、取引先(仕入先、販売先)、金融機関などとビジネスを推進するなかで、問われてくるのが「差異」だと考えます。よくマーケティング用語として「差別化」がでてきますが、必要なことは「差異化」です。他と違う、オリジナリティがあることに価値があります。差別して誰かを貶める必要はありません。
差異をもとにビジネスを展開していこうということが「デザイン経営」なのだと、私は理解しています。
知的資産経営
また、近年では知的資産経営の文脈からも知財活用の重要性が高まっています。ここでは知的財産権=産業財産権+特許権として表現されています。
そのうえで、もっと広い概念として知的資産全体を活かして経営しようとするものが知的資産経営です。広義の知的資産=狭義の知的資産⊃知的資産知的財産⊃知的財産権と表現されます。以下の図がわかりやすいイメージ図です。こちらは特許庁の親である経済産業省が推進しています。

出典:経済産業省「知的資産・知的資産経営とは」
特許庁はデザイン経営を推進しています
省庁として面白いウェブページのつくりだと感じます。ページタイトルが特に面白いと感じます。読み物としてのわかりやすさを優先した結果、このような表現になっているのだと思います。
いろいろなところに情報を分散させるのではなく、一つのコンテンツとして整理しているので入口として使い勝手がよくなっています。折角だったらLPとして独立させた方がよいのに、もったいないと思うほどです。
デザイン経営とは
「デザイン経営」とは、デザインの力をブランドの構築やイノベーションの創出に活用する経営手法です。その本質は、人(ユーザー)を中心に考えることで、根本的な課題を発見し、これまでの発想にとらわれない、それでいて実現可能な解決策を、柔軟に反復・改善を繰り返しながら生み出すことです。
特許庁はデザイン経営を推進しています 1. 「デザイン経営」とは
上記で示されている「デザイン経営」は、デザイン思考(デザインシンキング)の人間中心設計がベースにあると考えます。デザイン思考のもとは、工業デザインや建築系のデザインに端を発し、デザイナーの思考方法などをビジネスに活用していこうということで有名になってきたと理解しています。
ただ、一口にデザイン思考といっても、①イリノイ工科大学のデザインスクールの流派、②IDEOやスタンフォード大学のデザインスクールの流派、③ミラノ工科大学の流派などがあります。関連した考え方としては、④スペキュラティブデザインや⑤アート思考などがあります。
参考資料
中小企業におけるデザイン経営
今回は「中小企業のためのデザイン経営ハンドブック」にならって記事を書きたいと思います。
課題別 デザイン経営の入口
上記で紹介したハンドブックでは、中小企業が抱えがちな課題別にどこからデザイン経営に取り組めばよいかを紹介しています。
販路が広がらない
中小企業のためのデザイン経営ハンドブック 9ページ
新規事業がつくれない
下請けから抜け出せない
優秀な人材が採れない
会社の空気が悪い
「下請けから抜け出せない」以外は、クライアントと対話するなかでよく出てくる課題です。会社を中心として半径500mを対象としたビジネスであっても、表現は異なりますがよく出てくる課題です。
「下請けから抜け出せない」は、製造業、建設業、SES主体のIT業、広告・出版業など多重構造の請負が一般化している業界ででよく出てくる課題です。特定の企業からの受注に依存している場合で、業界全体がシュリンクしたり、業界構造が変化している場合に課題になります。
PART1 会社の人格形成
「キャラクターの確立からはじめる」とあります。
企業は”法人”というくらいですから法人格という人格を持ちます。個々の企業を形づくっている個性があるということを示しています。
しかしながら、懸命な経営努力を日々重ねるなかで「何のために存在しているのか」といったことが見えづらくなってきます。そこで、この部分から振り返りましょう。
MISSION 意志と情熱を持つ
中小企業のためのデザイン経営ハンドブック 10-11ページ
IDENTITY 歴史や強みを棚卸しする
VISION 未来を妄想する
PART2 企業文化の醸成
「カルチャーの醸成から始める」とあります。
どんな企業でも組織風土や組織文化といったものがあります。多様なステークホルダーとのかかわりの中で、それぞれの企業のなかに独自の風土や文化が根付きます。
よい風土や文化であれば、「よりよくしていこう」でよいのですが、時代に合わせたり、未来を見据えて「リデザイン」しようということが示されています。
BEHAVIOR 社員の行動変容を促す
中小企業のためのデザイン経営ハンドブック 12-13ページ
COLLABORATION 社内外の仲間を巻き込む
STORYTELLING 魅力ある物語を発信する
PART3 価値の創造
「モノ・サービスの創出から始める」とあります。
ここはプロダクトアウトで自社がつくりたいものを作ろうと早合点してしまいそうな表現になっています。しかし、言いたいことはMVP(Minimum Viable Product:実用最小限のモノ)で、市場・顧客から求められているコトに、すばやく対応していきましょうということが示されています。
INSIGHT 人を観察・洞察する
中小企業のためのデザイン経営ハンドブック 14-15ページ
PROTOTYPING 実験と失敗を繰り返す
EXECUTION 心をつかむモノ・サービスをつくる
支援ツールの活用「デザイン経営コンパス ワークシート」
STEP1~3を順に作成することで見える化されてくることを意図していると思います。
単純に一度作成すればよいのではなく、作成後に行ったり来たりしながら中身を磨き上げていくことに価値があると考えます。
STEP1-1.現状把握(確認)
デザイン経営コンパス Ver.2 ワークシート p9
STEP1-2.現状把握(可視化)
STEP1-3.現状把握(分析A/B)
STEP2-1.深堀り・発散(人格形成①~③)
STEP2-2.深堀り・発散(文化醸成①~③)
STEP2-3.深堀り・発散(価値創造①~③)
STEP3-1.活動検討(人格形成)
STEP3-2.活動検討(文化醸成)
STEP3-3.活動検討(価値創造)
STEP3.[補足資料]デザインアクション(総合)
STEP3.[補足資料]知財アクション(総合)
STEP3.[補足資料]経営デザインシート(簡易版)
別の支援ツールの活用「経営デザインシート」
「デザイン経営コンパス ワークシート」もよいツールだと思いますが、ビジネス面は少し弱いように感じます。そんな時は「経営デザインシート」の活用をおすすめします。
注:「デザイン経営コンパス ワークシート」の補足資料として、「経営デザインシート」が紹介されています。
作成補助シート1~4を活用して、企業を取り巻く情報を整理します。そのうえで、「経営デザインシート(簡易版)」を活用して、未来を描き、現在とのギャップを明確にします。最終的に解決策を検討するとよいです。また、理念・想いの部分は「デザイン経営コンパス ワークシート」で検討した内容を活かすとよいと思います。あくまでも「経営デザインシート(簡易版)」は、ペライチで情報を見える化するためのツールです。
別の支援ツールの活用「START INNOVATION with this visual toolkit.」
上記を読んだところで、結局どうすればよいかわからないということもあると思います。そんな時は下記の本で紹介されている「イノベーションメソッド”FORTH”」にならって、まずは順番に進めるとよいと思います。
イノベーションを起こすためのツールなので、どんどん手を動かし、立ち戻りながら繰り返し・素早く行動することに意味があると考えます。
第三者の活用
経営者を中心にデザイン経営を推進しようと思っても、企業のなかで一番忙しいのが経営者です。本業を推進しつつ、新たにデザイン経営にも取り組むとなると推進力を保てないことが多くなります。
そんな時は第三者を活用して、デザイン経営に取り組んでいくことをおすすめします。中小企業のことがよくわかっているビジネスデザイナーや中小企業診断士などが第三者の活用候補です。